2017年7月10日月曜日

「共謀罪」=「改正・組織犯罪処罰法」の問題点――国家権力による恣意的運用それ自体を目的とする治安法 / 渋谷要

★2017、7、11施行弾劾!


「共謀罪」=「改正・組織犯罪処罰法」の問題点――国家権力の恣意的運用それ自体を目的とする治安法

渋谷要



第一節 「テロリズム集団その他」の定義を巡って



 2017615日、政府支配層・国家権力は、「テロ等準備罪」として、「共謀罪(対象犯罪277)」(組織犯罪処罰法・改正案)の国会成立を強行した。TOC条約(国際組織犯罪防止条約、パレルモ条約)の締結に必要な法律整備だという「正当性」の主張に基づくものである。だがTOC条約は、暴力団、マフィアなどがマネーロンダリングや人身売買などの犯罪をすることを処罰するもので、テロ対策の条約ではない。だから共謀罪とTOC条約の整合性には、多くの立場からの疑問がなげかけられている。

「共謀罪」の性格それ自体を私の立場から、最初に規定しておくならば、自民党改憲案の「緊急事態」条項(本論第一節参照)に先行的に準拠した人権抑圧、警察国家、戦争国家の治安弾圧立法にほかならないということだ。そいういうことが、単にアジテーションではないことは、この立法を読めばはっきりわかることだ。

同法は、「国立国会図書館」のホームページの中の「議案情報」で、検索すれば読める。件名「組織的な犯罪の処罰および犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」、種別「法律案(内閣提出)」、提出回次(国会のこと)「193回」、提出番号「64」である。 



●「テロリズム集団その他」とは 



 同法は「組織犯罪処罰法」の改正法規であり、「組織犯罪処罰法」とは別に「共謀罪」なる名前の法律があるわけではない。ここで「共謀罪第何条」とは、「組織犯罪処罰法第何条の改正事項」。「新設事項」であることを示すものである。

同法の「第六条の二」(新設)は、次のように書いている。「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(この「その他」で、公安の恣意的な運用が際限なく広がる危険がある――引用者)(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。……)」とされているものである。

 その者たちが、「死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められているもの」(別表4になる)の「準備行為」をしたとき「5年以下の懲役又は禁錮」になる(もう一つ同様の規定があるがここでは省略する)というのが、この第6条2だ。

 この「準備行為」は「当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画したものは、その計画をした者のいずれかにより、その計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為」とされるものである。

 こうして上記、刑事罰の犯罪法規を公安権力が、今までよりもより、恣意的に運用できるように、しようとするものに他ならない。

 だからこの別表三に何が書かれているか、どういう法律に違犯したもののことかを見ることにしよう。



●「潜在的違法事案の摘発」でつかわれてきた犯罪



 この別表3には、90個の犯罪があげられている。その一つに、刑法77条一項の「内乱」や、刑法107条の「騒乱」などが、あげられている。この準備行為の範囲は、恣意的に解釈した場合、ものすごく広くなり、およそ「帝国主義の侵略反革命を蜂起・内戦へ」などというスローガンを言っているなどの組織の経済活動総体が、少なくとも監視の対象となる可能性があるだろう。

 だが、ここでは、もう少し、現実に照らしてみてゆこう。

それが、1980年代中頃より、警視庁公安など日帝公安が「潜在的違法事犯の摘発」などと称し、微罪逮捕弾圧を繰り返してきた、以下の法律群である。

 これは例えば活動家の自分の住所と引っ越しなどで自分の自動車の住所が古い住所だったりした場合、それを「公正証書原本不実記載」「免状不実記載」などとして検挙するというものとして展開されてきたものだ。「虚偽の住民登録」(電磁的公正証書原本不実記載・同供用)などとして、でっち上げ、フレームアップの「微罪」弾圧がおこなわれてきた事例は、いくつもある。

以上のような事例に、関わるように、この表の「二ヌ」では次のような規定がある。

「刑法第155条第一項(有印公文書偽造)若しくは第二項(有印公文書変造)の罪、同法第156条(有印虚偽公文書作成等)の罪……同法第157条第一項(公正証書原本不実記載等)……同法第161条の第一項から第二項まで(電磁的記録不正作出及び供用)の罪」などがあげられている。

 これらは、公安警察の「微罪」でっち上げ弾圧であるにもかかわらず、過激派が意図的にやっているなどとして展開してきたものであり、これが、共謀罪では、「テロリズム集団その他」の行う「罪」とし、これを行う者が「テロリズム集団その他」とでっち上げられているのである。

だが、この別表三は、それにはとどまらない。

極め付けがまだあるのである。



●航空危険罪、火炎瓶法を規定



以下の項目は、三里塚闘争にかかわる新左翼は「テロリズム集団その他」だと露骨に一言っているようなものである。

この表の「五十八」として「火炎びんの使用等の処罰に関する法律(昭和四十七年法律第十七号)第二条第一項(火炎びんの使用)の罪」。「六十」として「航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律(昭和四十九年法律第八十七号)第一条(航空危険)、第二条第一項(航行中の航空機を墜落させる行為等)」などが、あげあれている。

これらは三里塚闘争において、1980年代後半、三里塚現地にある新左翼の団結小屋の撤去のため、この団結小屋が「暴力主義的破壊活動者」の結集場所となり、三里塚空港に離発着する航空機に危険な影響を及ぼしているとし、この小屋を、運輸大臣命令で撤去できるとした「成田治安法」を歴史的に根拠とするものに他ならない。この「成田治安法」での撤去を受けた団結小屋のセクトもまた、「テロリズム集団その他」と呼ばれ、新たに同法に基づいて監視などされる可能性がある。

こうして、この法は、一定の集団を想定しているということが言えるだろう。

そのことをふまえつつ、こうした監視・弾圧を広範な民衆、市民に広げ、市民社会全体を監視する体制が、この共謀罪の体制だといえるだろう。

まさにそこに法案起草者たちの真の意思・意図がある。緊急事態条項を貫徹するための治安体制の先取り的な形成なのである。



※緊急事態条項……「自民党改憲草案」では次のように、書かれている。

「草案」の「第九章 緊急事態(緊急事態の宣言)第九十八条」は次のようである。

「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。

2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。

3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。

4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする」。

このような緊急事態の定義は、「国家緊急権」と法概念化されるものであり、国家の緊急事態における国家の「自然権」とされているものである。そしてこの規定は、実は、人民が自然権として持っている「革命権・抵抗権」と、セットの関係にあると近代民主主義の自然法概念ではされているものだ。だが「草案」は、こうした「国家緊急権」は認め、人民の「抵抗権・革命権」は、認めないというシフトをとっている。

また、「内乱等による社会秩序の混乱」なども、緊急事態と規定されているように、国家体制打倒の革命に対する弾圧の基本法として、この「草案」が存在していることは明白である。

「(緊急事態の宣言の効果)第九十九条 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。

2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。

3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、<何人も>、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他<公の機関の指示に従わなければならない>。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。

4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる」。

この法規の冒頭で定義している「政府は法律と同じ効力を有する政令を制定できる」とあるのは、政令は国会の審議を通さないものであって、かつ法律と同じ効力というのは、明治憲法の天皇の緊急勅令とおなじものだ。さらに、「何人も、…国その他公の機関の指示にしたがわなければならない」という国民徴用・有事動員の規定が書かれている。共謀罪はこうした体制を円滑に運営するために、常日頃から市民社会を監視し、緊急事態体制の構築を阻害するような行動(「おそれ」を含む)を弾圧することが、目指されている。もちろん、緊急事態以外の常時・平時にも、使われてゆく弾圧立法だ。(拙著では、「国家基本法と実体主義的社会観」、『エコロジスト・ルージュ宣言』、社会評論社、92頁以降、参照)



第二節 「危殆(おそれ)」の罰則規定



●表現の自由に対する監視



すでにみたように、共謀罪は、犯罪を実行する前に、警察が「準備」だと認識(でっち上げも想定される)した段階で、検挙することができる。こうしたことは、公安が目を付けた捜査対象を日常的に監視しなければ無理である。だから、表現の自由、内心の自由を際限なく抑圧する。

例えば、安保法制反対の集会に行った市民グループAが参加する地域共闘に新左翼セクト(「テロリズム集団その他」の規定として、前回見た同法の「別表第三」の犯罪を犯したとされているグループ)の組織した市民運動体Bが参加していた。公安は、それを見て市民グループAは、市民運動体Bとどういう関係か捜査する。そして、市民グループAも、同法「別表第三」に関連したグループと連絡のある団体として、今はそうでなくても、将来「テロリズム集団その他」になる可能性があり、捜査・監視の対象とされてゆくことになる。こうした監視対象の際限のない規定は、その公安部署に、これまで以上に資金が支給されることにもなり、だから、できるだけ手広く監視対象を広げるということになっていく可能性がある。

その場合、それは治安法の常とう言説としてある「おそれがある」という、危殆犯の規定とつながってゆく。犯罪を実行する「おそれ」としての「準備行為」、また、「準備行為」をする「恐れがある」共謀関係者を監視せよ(捜査権の行使として正当化される)というわけだ。そうでなければ、「準備行為」を把握できず、また、でっち上げで「準備行為」なるもののストーリーを作り上げることもできないだろう。こうして、社会運動を抑圧し、表現の自由を著しく侵害する監視秩序が出来上がってゆく。

まさにこうした「準備行為」は、罪状であって、「共謀罪」の構成要件(法律に規定された個別の犯罪類型)の規定ではない。だから、「準備行為」がない場合でも、警察権力は疑いに対してなどで捜査権を行使できるわけである。



●危殆犯としての「準備行為」



共謀罪の「準備行為」は、「計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為」とある。これに対し共謀罪に反対する人々の中には、「戦後の近代民主主義国家の刑法においては、実行した行為を裁く大原則があるのに、共謀罪は、行為以前の内心まで裁く悪法だ」という言説がある。それは、一般論としては、正しいかもしれない。だが、歴史経験上は、正しくない。それこそ、戦後民主主義幻想だ。

また日本の場合、現行刑法は明治40年公布され、その大日本帝国時代の法規が戦後出直し的に新設されるのではなく、「改正」されてきたという歴史を前提としなければならない。「正しくない」と書いたのは、以下のような理由からだ。

戦後日本では、破壊活動防止法という特別刑法(1952年公布、公安調査庁設置)が設置されてきた(前回紹介した「成田治安法」なども、この系統の法規になるだろう)。破防法においては、刑法で規定する内乱、騒乱、放火、爆破、殺人などの活動の範囲について、かかる活動のための「予備」、「陰謀」、「教唆」とその「扇動」までが、かかる活動の範囲に入れられている。例えば同法の規定では「文書」「図」「言動」も、この「扇動」に入るとされる。これは思想それ自体、例えば「帝国主義打倒!」という思想それ自体を裁くものである。

現に、1969年4・28沖縄闘争(破防法401号、3号(騒擾・持凶器多衆公妨罪の扇動)、赤軍派による大菩薩峠での首相官邸襲撃訓練(同法39条、401号、3号(殺人、持凶器多衆公妨罪の扇動)、などとして、「扇動罪」での弾圧が破防法の特徴となっている。

破防法が衆議院で審議されていたとき、当時の法務総裁(法務大臣)が答弁で「扇動等の行為は、現下の事態にかんがみますときわめて危険な行動であるにもかかわらず、現行刑法の規定をもってしては、決して十分ではないからであります」と述べている。破防法が思想そのものを裁く治安維持法の思想と通底する法規であることははっきりするだろう。

戦後においても、かかる近代刑法の大原則を逸脱する法規は存在するのである。また、現行刑法(明治期に公布)においても、その一〇六条「騒擾罪」(19681021国際反戦デ―の新宿闘争(「新宿騒乱」と言われる)に適用)も「危殆犯」であり、「公共の静謐」が現実に侵害されていないときでも、その危険があると判断すれば適用できるとされている。

【※(注)この法規は1907年(明治40年)に刑法が公布された折、明治期の旧刑法(1882年、明治15年成立)「凶徒聚衆(しゅうしゅう)罪」を継承してできたものである(この場合、この法規の成立、解釈の変遷については、「足尾鉱毒凶徒聚衆事件」の大審院判決(1902年、明治35年)以降の変遷問題に触れる必要があるが字数の関係で省略する)。さらに、1995年「騒乱罪」となった。

また戒厳令が発動された1905年「日比谷焼き討ち事件」を権力は「凶徒聚衆事件」として構成している。この規定は、戒厳令中、「合囲地境」における「軍衙」における裁判の対象となる法規の一つとして「凶徒聚衆罪」が定められていたことに基づく】。

危殆犯――扇動・予備罪――「準備行為」罪これらは、すべて同一の概念と見なければならない。



●治安維持法「目的遂行」罪との重なりをもった共謀罪「6・2・2」



そうした権力の恣意的弾圧が際限なくできるシステムをつくる点で、これから見る共謀罪「第6条2の2」の規定は、重要である。

そこには次のように書かれている(文中の〈……〉は引用者・渋谷の強調です)。「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団に不正権益を〈得させ〉、又はテロリズム集団その他の組織的犯罪犯罪集団の不正利益を〈維持し〉、若しくは〈拡大する〉目的でおこなわれるものの遂行を二人以上で計画した者も」、「準備行為」をおこなったときは、「同項と同様とする」(つまり、6条2の1と同様とする)というものだ。

ここでは、「テロリズム集団その他」に同調するシンパサイザー等々の人々が対象となっていると考えられる。例えば、公安政治警察からみて、シンパサイザーが「テロリズム集団その他」にカンパするのも、「不正(なぜなら組織的犯罪集団の権益それ自体が不正にあたるから)権益」を「得させる」行為とされるだろう。また、「テロリズム集団その他」のメンバーが参加した街頭署名の時、通りかかってカンパした人も、これに含まれる恐れがある。こうして、この規定は、際限なく恣意的な運用が可能となる規定だ。

そしてこの規定は、「國体の変革」「私有財産制度の否定」を目的とした結社、個人に対する罰則をさだめた「治安維持法」(1925年)に1928年「改正」で最高刑を「死刑」とすると同時に付け加わった「目的遂行罪」と重なり合う。

それは「結社の目的遂行のためにする行為をなしたる者」として、その人が本当に、ある結社と関係しているかどうかに関係なく、特高警察の側で、その人が、結社の「目的遂行」のために行動していると判断(でっち上げ)すれば、同法を適用できるとするものであり、結社以外の広範な人々への弾圧を可能としたものである。

治安維持法は、法益を「國体」(天皇制)護持の規定とするものだったが、「國体」という概念をはじめて法制的概念として登場させたものであり、天皇制国家を守るため、市民社会の一切の「不穏分子」を弾圧するため、市民社会総体を監視するものにほかならなかった。

こうした、公安当局のストーリーによる、でっち上げ、フレームアップ型の弾圧と、市民社会総体を監視することを目指す指向性を、共謀罪6条2の1とともに、6条2の2は、持っているといえるだろう。



第三節 「不正権益」「犯罪権益」の没収について



●共謀罪における「不正権益」「犯罪収益」の没収



これまで二節にわたり、共謀罪のポイントについて、この組織犯罪処罰法の「改正」のポイントを見てきた。

この組織犯罪処罰法と、共謀罪なる「改正案」との関係だが、この法律は、もともと、暴力団対策・オウムなどのカルト的暴力集団の経済的資源を壊滅するべく、組み立てられた法律である。だから刑法でも、経済的犯罪やサリン・化学兵器などに関する処罰規定は入っていても、いくつかの「暴力行為」を処罰する規定はあっても、内乱罪や騒乱罪、火炎瓶法など、左翼過激派など、政治的過激派対策に使われるような法規は、もともと入っていなかった。ほとんどが、経済犯罪にかかわるもので、「覚せい剤」「売春」「不正競争」「金融商品取引法」「児童福祉法」「大麻取締法」などなど、あまり左翼とは関係ないものが大半を占めている。

それに対し、今回、共謀罪「改正案」では、この政治的過激派対策の内容がこれに代入された形となっている。



●経済的処罰法の問題――「犯罪収益」規定の恣意性



例えば、この組織犯罪処罰法の立法趣旨に当たる、第一条は次のように明記されている。

「第一条 この法律は、組織的な犯罪が平穏かつ健全な社会生活を著しく害し、及び犯罪による収益がこの種の犯罪を助長するとともに、これを用いた事業活動への干渉が健全な経済活動に重大な悪影響を与えることにかんがみ、組織的に行われた殺人等の行為に対する処罰を強化し、犯罪による収益の隠匿及び収受並びにこれを用いた法人等の事業経営の支配を目的とする行為を処罰するとともに、犯罪による収益に係る没収及び追徴の特例等について定めることを目的とする」。

そして、第二条では「犯罪収益」に関する規定が列挙されている。

「第二条3この法律において『犯罪収益に由来する財産』とは、犯罪収益の果実として得た財産、犯罪収益の対価として得た財産、これらの財産の対価として得た財産その他犯罪収益の保有又は処分に基づき得た財産をいう」、「第二条4この法律において『犯罪収益等』とは、犯罪収益、犯罪収益に由来する財産又はこれらの財産とこれらの財産以外とが混和した財産をいう」としている。

「犯罪収益以外」に、これらの財産と「混和した財産」まで、「犯罪収益等」として同等にみなされるのだから、この法の適用で「犯罪集団」とされた集団の一切の財産は、「没収」「追徴」の対象となるだろう。もともと、この法の本筋はこうした経済的処罰法にほかならない。だから、政治的なものではないといっているのではない。逆だ。

これが、今回「テロリズム集団その他」に対して、次のように、作用してゆくことになる。



●反帝闘争の組織の壊滅を狙う――「没収」の規定



「共謀罪」の法規は、組織犯罪処罰法の「第二条第二項」(犯罪収益の規定)に、次の一号を加えるとして、改正案である組織犯罪処罰法の「第6条2」(新設)で規定した「第6条の2(テロリズムその他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画)の罪の犯罪行為である計画(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならば当該罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。)をした者が、計画をした犯罪の実行のための資金として使用する目的で取得した財産」としている。これも、いくらでも、解釈可能である。

この第1章につづく第2章から、「没収」の規定が始まる。

「団体に属する犯罪行為組成物件等の没収」(第8条)、「犯罪収益等の没収等」(第13条)から、延々と規定が続いている。

こうして、「テロリズム集団その他」なるものの資金源を根こそぎ、没収しようとしている。

これは、成田治安法が、航空危険罪などの名目で、三里塚現地の団結小屋を撤去していったように、それをもっと、規模を無限にして、弾圧対象の団体の財産をねこそぎ没収する可能性を示唆するものにほかならない。

組織犯罪処罰法には、さらに「不動産の没収保全」(第27条)、「船舶等の没収保全」(第28条)、「動産の没収保全」(第29条)、「債権の没収保全」(第30条)、「その他の財産権の没収保全」(第31条)など細目にわたって規定されている。また、追徴の規定が別にある。追徴とは刑法上、本来没収できるものを没収することができないときに、その物の価額の納付を強制することである。

アメリカの「愛国者法」(20012015年)にも、テロリズム活動、支援などを対象とした資産凍結などの規定があった。



第四節 「転向」システムとしての共謀罪――手続きそのものがファシズム法



●「悪法も法」?――「治安維持法」擁護



6月2日(2017年)、 この共謀罪が審議されている衆議院法務委員会で共産党の議員の質問に法務大臣は、治安維持法はすべて適法的に運営されていた、何の問題もない旨の発言をしている。権力を法(社会契約)で拘束する・制限するという民主主義による「法の支配」という意味での法実証主義ではなく、「悪法も法」という意味での形式論理的な法実証主義であり(自民党の改憲草案では国家権威主義的(国家道徳主義的)な意味での法実証主義が顕著であるが――拙著では、「国家基本法と実体主義的社会観」、『エコロジスト・ルージュ宣言』、社会評論社、75頁以降、参照)、その法の目的に基づいて適法に運営されていたということだ。人権破壊の拷問をふくむ取り調べという名前の転向強要、スパイ強要といった、ファシズム弾圧法であったがゆえに、戦後直後、廃止されたことについては、まったく、その事実経過を忘失するような発言にほかならない。

この治安維持法は、何度か「改正」がおこなわれており、1934年(第65議会)に「予防拘禁」の規定が、1941年(第76議会)では「予防拘禁所」が設置された。34年の予防拘禁の規定は、非転向のままで釈放される者の「再犯」予防であった。それに加え、41年の規定では、「思想犯保護観察法」の保護観察では十分に再犯の危険を防止するのが困難であるとみられたときには、予防拘禁所に入れられるとした。つまり「すでに釈放されてしまっているものでも、『転向』の仕方が不十分であるとみた場合には――現実の犯罪行為がないのに――もう一度身体の拘束を課することを可能ならしめるものである」(奥平康弘『治安維持法小史』、筑摩書房、217頁)というように展開した。

予防拘禁の期間は一応、2年とされたが、非転向の場合などは、裁判所の決定をもってこれを更新できるとし、無期にわたる拘禁ができるようになった。こうした人権の圧殺の事実を、法務大臣は適法だったから良しといっているのだ。まさにファシスト法擁護の発言だ。

アメリカの「愛国者法」(20012015)もまた、テロ関係者の疑いがある外国人を、司法手続きなしで7日間拘束できるとし、さらに実際は、その期間以上に長期拘留・予防拘禁した事例がある。また、テロ関連との理由から、個人のプライバシーに関する電話やメールなどの盗聴が裁判所の決定なしで行えるようになった。

共謀罪もまた「準備行為」の把握は、こうした捜査によってしかわからず、また、デッチ上げのためのストーリーを作ることも不可能だ。

さらに、この組織犯罪処罰法においても予防拘禁のような弾圧手法の検討もめざされてゆく可能性がある。例えば沖縄での山城博治さんへの5か月にもおよぶ、不当拘留はその先取りだ。正当な抗議行動に対し、威力業務妨害、公務執行妨害、傷害の罪がつけられ、保釈に関しても、「事件関係者との面会を禁じる条件」が付けられている。これは保護観察と同じというべきだろう。

※この再犯防止の拘留延長は例えば、「拘留延長で社会復帰支援、検察が施行 高齢者らの再犯予防」(2014121日、日本経済新聞)などとして、居住・就労支援のためだとして、本人や弁護人の同意(容疑者が送検容疑を認め、拘留10日間では支援ができないときを条件としている)が必要という条件で、すでに制度として始まっている。



●転向・スパイ強要――仲間の売渡しを恫喝



また、共謀罪には「組織犯罪処罰法第6条の二」(新設)において「……その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、または免除する」と規定している。

まさに、文面それ自体を素直に読めば、転向強要・仲間に対する裏切り売渡しであり、また、権力によるでっち上げ弾圧の場合は、権力のスパイが、でっち上げのストーリーにあわせて、「準備行為」と判断できる行為を、でっち上げたい人にやらせるなどの、いろいろな事例が推測として考えられるだろう。

監視(―盗聴など)、自白強要、密告・通報(虚偽のものを含む)、でっち上げ弾圧の法規、それが共謀罪だ。



●共謀罪の発動のストーリー――これとどう闘うか



共謀罪の反対運動において、野党の幹部が宣伝カーの前で、発言している動画をYoutubeなどで、よく見る。それはいい。だが、その中で、「(市民や労働組合、政党の運動ではなく)取り締まるのは、暴力団、右翼、革マル、中核に(限定せよ)」などと発言する野党の発言者の発言を聞いて、唖然とした。

ファシズムの立法は、だれに適用されても、民主主義に反し違法であり、違憲なのだ。これが、法のルールに関する民主主義の基本的な考えかたである。国会答弁で、野党は、「市民に対する不当・不法な監視」を問題にする。それはいい。だが、問題は、これまでみてきたように、法の執行そのものが憲法の民主主義的諸権利に対し、違法な手段を行使しているということであり、その段階で、まさに、弾圧の実行「準備段階」で、違憲であり、民主主義的諸権利に対する侵害を犯すもの以外ではない。だから、反対しなければならないのが、この共謀罪であり、まさにかかるファシズム立法にほかならない。

だから、誰に対しても、この法の運用は違憲・不当なのだ。
もっとも、「だから、右翼とも共闘しよう」などという主張には反対する(それは階級闘争として闘う態度ではない)が、国家権力の横暴には、反対の声をあげてゆくべきだ。

政治的運用としては左翼運動、反体制運動への弾圧法規であり、それを目的としている。人民抑圧の治安維持法型法制として、機能させるべく、設計されたものにほかならない。いずれにせよ、「誰に対しても行使するな!」という声をこそあげてゆくべきなのである。(了)